会心の勝利。GW最終日に日産スタジアムを訪れた多くの家族連れが虜になるには、十分魅力的な90分間だった。

 2015明治安田生命J1リーグ1stステージ第10節、名古屋グランパス戦。横浜F・マリノスは、エリク・モンバエルツ監督曰く「この数日間に練習」したという3バックで臨んだ。3トップと両WBに対して5人の選手がマンツーマンで対応し、相手に形を作らせることなく2-0で試合を終えている。

 指揮官は試合後、「2つのシステムを使え得るようにしたい。1つだけしか使えないというのではなく、今Jリーグのチームで同じようなやり方をしてくる相手が多いので」と、この“ぶっつけ3-4-3”を今後も使うことを示唆した。

 名古屋戦はシーズン前半戦を振り返る上で、欠かせないターニングポイントとなるような試合だった。しかし、次の転機はあまりにも早く訪れる。

「相手に合わせ過ぎたくない。われわれのベースは4-2-3-1だ」

 名古屋戦のわずか1週間後、敵地でアルビレックス新潟に辛勝すると、モンバエルツ監督はそうコメントした。この試合も横浜は3-4-3でスタートしたものの、後半開始から4-2-3-1に変更。それ以来3バックは採用されていない。

 前任の樋口靖洋監督は、「チームのスタイルを構築すること」を就任する際の公約に掲げた。2013年のチームは彼の描く「攻守においてイニシアティブ」を体現。リーグ戦では62ポイントの勝ち点を積み上げ、ヤマザキナビスコカップベスト4に天皇杯優勝と、濃密な1年間を過ごした。

 翌シーズンに同等の結果を得られなかった要因の1つとして、積み上げた唯一のスタイルへ依存しすぎたことを挙げたい。樋口前監督は伝統的な戦い方の不在を指摘したが、相手によって戦い方を変えられない頑固さこそ、このクラブの伝統として就任前から染み付いた“色”のように感じる。

 ここで今年の話に戻そう。第4節柏レイソル戦のハイプレス&ショートカウンターや前述の名古屋戦における3バックといった、相手に合わせた戦い方には心が踊った。悪しき伝統を打ち払ってくれる期待を抱いたからだ。

 それだけに、「相手に合わせ過ぎたくない」発言には少し落胆した。

 チームはその後、清水エスパルスと松本山雅FCに勝利。4連勝を収めたが、リーグ戦で直接対決7連勝中の“お得意様”清水を順当に下しただけであり、松本戦は値段の差が出たに過ぎなかったとの見方もあるだろう。

 マリノスは4連勝の後に4戦勝ち無しで前半戦を終えた。結果を見てから指摘するのは簡単だが、例えば1-1の引き分けに終わったヴァンフォーレ甲府戦で5人のDFを並べるという選択肢はなかっただろうか。

 サッカーは数字の並びでするものではない。同じフォーメーションのままでも相手への対策は可能だ。しかし新潟戦以降、試合後の会見で指揮官の口から「相手がこういうチームだから、こういう対策を講じた」という話は聞こえてこない。

 2ndステージには、FWラフィーニャ、MF中村俊輔、DF栗原勇蔵の復帰が予想される。戦力の上積みは確実だが、優勝するためには「2つのシステムを使え得るように」が必要となるのではないだろうか。