Jリーグ史上最強チームはいつの時代のどのチームか、という話題になると、
01年、02年辺りの磐田が候補の1つとしてしばしば挙げられる。
当時の磐田を象徴する戦術が "N-BOX" であり、磐田ファン以外でもかなりの知名度を誇る。
だがしかし、N-BOX に関する議論を眺めていると、N-BOX に関して多くの人の見解と自分の見解の
間に多くの差異があることをしばしば認識する。
そもそも、磐田サポの中でもこのシステムの理解には大きなギャップがある。
今回は、自分なりの "N-BOX" を理解を明らかにすることで、この記事を読まれる皆様が
N-BOX を認識する際の手掛かりになろうと思う。

・そもそも "N-BOX" ってなに?
サッカーの戦術の名前。フォーメーションの名称ではない。
wikipdedia では "中盤の陣形" と説明しているが、規律無しでこの配置をやると
弱いを通り越して崩壊に至るので、やはり N-BOX は規律含めての名称であるように思う。
一つの戦術に個別の名称がつくことは稀なので、その点でも印象深いワードなのだろう。
ちなみに、命名は当時毎週発行されていた専門誌「サッカーマガジン」である。

・どんな戦術なのか
N-BOX は、プレスとカバーリングによる能動的なボール奪取を可能とするシステム。
前線から最終ラインまで、チーム全員で絶え間なくプレスとカバーリングを行い、
ボールを高い位置で、或いは相手の攻撃を狭いエリアに誘い込んで奪うことができる。
選手の並びは以下の通り。
サイドハーフを置かず、サイコロの「5」の目のような中盤の5人の選手配置が特徴。
N-BOX1

この戦術の最大の特徴は、波状攻撃ならぬ波状防壁を作ることにある。
ボール奪取までの流れを、図を交えて簡単に説明してみる。
相手が4-4-2で、左サイドから攻めてくると仮定する。
サイドが変わっても、N-BOX は左右対称の戦術なので、同じ事を実践すると考えて欲しい。

N-BOX2
まずはボールに近い方の FW が相手のボールホルダーに対してチェイスを行う。
相方の FW とボールサイドの2列目の選手は、中央へのパスコースをカットしながらフォロー。
相手は、チェイスを受けているので正確なサイドチェンジは出せず、隣接する選手に
横パスを出すしかない。
今回の場合では、赤の3番は2番か5番にしか出せない。

赤の5番がボールを持ったら、水色はボールサイドのFW と2列目の選手で中央へのパスコースを
カットしながらプレスをかける。同時に、ボランチがボールサイドに寄り、相方のFW と逆サイドの2列目の
選手は中央に絞る。ちなみに、技術の未成熟なチームが相手の場合はここで奪えてしまう。

逆サイド、および中央へのパスコースがカットされているので、赤の5番はサイドから縦にパスを出す。
ここで水色チームはボールサイドに寄っていたボランチが守備に当たり、中央にいる "7番" が
ボランチがつり出されたスペースをカバー。2列目の選手も前線から戻る。
すると、下記の図のような状態になる。
N-BOX3
ボールホルダーを3人で囲める。ここで奪える。

これが N-BOX の守備の基本的な規則。
攻撃は、奪ったところから即座にカウンターを発動する。
試合を落ち着かせたいときには、逆にゆっくり回して相手を帰陣させる。
他にもたくさん決まり事があるが、数が多いことと複雑すぎることから、ここでは紹介しきれない。
この戦術の代表的な流れを説明することで、戦術の紹介としたい。

・N-BOX は守備のシステム
ここまでお読みいただいた方ならお気付きだと思うが、N-BOX は守備をするために考案された戦術であり、
最大の強みは攻撃面ではなく優れたボール奪取構造にあった。
むしろ、攻撃面の規則はほとんど決まっていなかったらしい。
Number 798号 の「ジュビロが最強だった理由」記事内にて、名波が N-BOX について
「攻撃の場合、5人の動きは基本的に自由。最初は服部だけが定位置を守るという考え方だったが、
トレーニングもしないで勝手に連携が生まれた」と語っている。
何よりもまず、この点を誤解を解いておきたい。

・N-BOX は7試合くらいしかやっていない!

これもまた誤解されることが多いが、N-BOX が採用されていたのは 2001年1stステージの半分だけ。
カップ戦で多少あったとしても、多く見積もっても10試合には達していない。
というのも、戦術の核である名波が1stステージの途中で怪我で離脱してしまったため。
N-BOX には、長い距離が走れて守備時のカバーリングのセンスがあって、かつ奪った時の
攻撃の起点になる役割が求められる選手が必要不可欠であるが、こんなことができるのは
当時の磐田では名波だけだった。というか、Jリーグ全体で見渡しても名波だけだった。
名波抜きの初戦となった試合で、磐田は藤田俊哉を中央に配置した "F-BOX" を試した結果清水に完敗。
以降、サイドハーフとトップ下を置いたオーソドックスな 3-5-2 でシーズン終了まで戦っている。
翌年にはまた違うことをやっていたので、結局 N-BOX は7試合程度しか導入されていないのである。
恐らく名波が離脱するまでが鮮烈すぎたので、そのイメージが先行しているのだろう。

・N-BOX の弱点はなに?
ウイングを置かれることと精度の高いサイドチェンジをされること。
相手に高い位置に張っているウイングがいると、どんなに頑張っても寄せる前にサイドの深い位置を
使われるので、狙い通りにボールを奪えずピンチが多発するばかりか、カウンターも打てずにチャンスが減った。
典型的だったのが当時のFC東京。当時のFC東京は両サイドに高い突破力を持つウイングを配置した 3 トップを
配置し、なおかつ精度の高いサイドチェンジを連発していたので、FC東京戦では深刻な戦術崩壊を招いた。
当時の対戦では勝利しているが、これは負けそうになった結果 N-BOX を放棄して
個の力で勝負という超強引な手段に出た結果。
N-BOX という戦術面では、完全にFC東京に屈していた。

・N-BOX を再現することはできるか?
できないことはないと思うが、現代で再現するのはあまりにナンセンスだと思う。
N-BOX は、試合に出ている選手達の戦術理解が高い次元で融合していないと、簡単に破綻する。
カバーリングが一瞬遅れただけでもすぐに突破されるし、プレスに行くタイミングを間違えたら
後方の選手がついてこない。カウンターに関しても、チームメイト全員で「あの位置で奪う」という
共通理解の元、奪った時には既にカウンターが始まっているという状態だった。
その共通理解を養うには長い年月の間同じメンバーで試合をこなす必要があるが、
試合数が当時に比べて格段に増えている今、ターンオーバーの効かないレギュラー完全固定システムを
導入したら、7試合とは言わないまでも1シーズンは絶対に持たない。
相互理解が進む前に、ガタが来てしまうだろう。

・N-BOX は現在でも通用するか?
ある程度は通用するだろうが、かつてのように絶対的王者に君臨するのは無理だと思う。
当時のJリーグに比べて、現在は選手全員の技術が洗練されている。フィジカルコンタクトを受けながら
正確なロングパスを通せる選手はどのチームにもいるし、複数人に囲まれても平気で突破していける
選手もいる。しかも最近ではキックの精度が高いGKが台頭し始めており、プレス回避にGKを使うチームも
多い。いかに N-BOX といえど、GKにまでプレスをかける仕組みはない。
技術的、戦術的に未成熟な部分が多かった当時だから通用した戦術であり、
「プレスしたら奪える」という前提がなくなった現在では、無闇矢鱈にラインを上げるこの戦術は
根底から覆されてしまう。技術的に未成熟なチームに確実に勝つ、という意味では無類の強さを
発揮するだろうが、上位チーム相手には通用しないだろう。

・結局何が言いたいのかというと
最後の方で N-BOX を否定したので、「お前は N-BOX が嫌いなのか」という疑念を
抱かれた方もいらっしゃるかもしれないが、そんなことはない。むしろ大好きまである。
当時としては洗練された戦術であることは間違いなかったし、歴代最強議論で毎度挙げられるのも
悪い気はしない。ただ N-BOX の構築には長い時間を要し、かつ構築しても扱いが非常に難しいこと、
また構造自体に限界があることを思うと、「またやってくれ」という気はまったく起きない。
Jリーグの歴史を振り返る上で、日本サッカーを成長させる要因の一つとして有意義なものだったと
たまに思い返すのが、N-BOX との正しい付き合い方なのだと思う。


・ついでに
N-BOX を考案、実践することに成功した鈴木政一監督は、現在 U-18日本代表の監督を務めている。
もともとスカウト出身で若手選手の選出眼には定評のある鈴木監督が、
自身の目利きと戦術構築能力をどう活かすのか、磐田サポーターとして興味は尽きない。
かつて「日本のデル・ボスケ」とも評された戦術の鬼才がどのようなチームを作るのか、
またどれだけの選手を未来に送り込むのか、ぜひとも皆様に見守っていただきたいと思う次第。


夜磐